立華高校マーチングバンドへようこそ 前編
発売日 | 2016年8月4日 |
作者 | 武田綾乃 |
出版社・レーベル | 宝島社・宝島社文庫 |

収録内容
- プロローグ
- 一 暴走フォワードマーチ
- 二 追憶トゥーザリア
- 三 緊張スライドステップ
- エピローグ
三 緊張スライドステップ
いい思い出なんてね、全然ない。

前ね、私言ったでしょう? 中学のころはテキトーに生きてたって。なんにも覚えてないって

そういや、そんなこと言ってたな。でも、科学部やったんやろ? そこでいろいろあったんちゃうの

……なんにもなかったよ。だって、幽霊部員だったから

私ね、学校が嫌いだったの。友達もいなかった。昔からね、駄目だったの。

人見知りだし、あんまり他人と話さないし。どんくさくて、周りに迷惑ばっかりかけちゃう

朝起きて、学校に行って、授業を受けて、帰る。本当に、ただそれだけの繰り返し。

思い出なんてなんにもなかった。気配を消して、教室の隅で、一日が終わるのをじっと待ってた。いい思い出なんてね、全然ない
名瀬あみかが佐々木梓に中学時代の暗い過去を泣きながら打ち明けたシーン。高校で出会った梓は、今の快活なイメージのあみかしか知らない。
隠したい気持ちがあるはずなのにわざわざ、夜中の23時に塔の島まで誘って、大嫌いな昔の自分をさらけ出したあみかの思惑は…?
エピローグ
もう梓ちゃんがいなくても大丈夫だよ。

ずっと悩んでたの、私。いまの自分のままでいいのかって

前からうち言ってるやん。あみかはあみかのままでいいって

それは梓ちゃんが優しいから。だから、そう言ってくれてるんでしょう?

でも、私、やっぱり迷惑ばかりかける自分は嫌なの。だからね、決めたんだ

決めたって、何を?

私、カラーガードを希望することにしたの

私、一人で頑張ってみるよ

だからね、もう梓ちゃんがいなくても大丈夫だよ
あみかは理想の自分になるため、トロンボーンではなくカラーガードを選択し、梓への依存を辞める決断をする。
梓にとっては一方的に関係を断ち切られる形になった。あみかの両親が同じ車内にいる状況なので梓は責めることもできない。告げるタイミングは作為的で残酷。
おわりに
「弱さを売りにしてる」と同級生の志保に言われているけど、これも計算高さを隠すための演技の一つで、あみかなりの処世術なのかもしれない。