小説『飛び立つ君の背を見上げる』から名シーンを3つ紹介します。中川夏紀視点で書かれたスピンオフ作品。

タイトル飛び立つ君の背を見上げる
巻数13巻目
発売日2021年2月27日
作者武田綾乃
出版社レーベル宝島社・宝島社文庫

収録内容

  • プロローグ
  • 第一話 傘木希美はツキがない。
  • 第二話 鎧塚みぞれは視野が狭い。
  • 第三話 吉川優子は天邪鬼。
  • エピローグ
  • 記憶のイルミネーション

第二話 鎧塚みぞれは視野が狭い。

ただ、一緒にいたかっただけ。でも、それがいちばん難しい。

みぞれの音大合格が決まり、遊園地に遊びに来ている南中カルテット。フリーフォールに乗り疲れて、優子と希美が休憩している間、夏紀とみぞれは観覧車に向かう。

ゴンドラに乗り込んだ二人は向かい合わせで座り、話題は希美のことに。夏紀は、みぞれが希美に向ける感情は恋愛に近いのではと考える。

中川 夏紀

希美のこと好き?

鎧塚 みぞれ

好き

中川 夏紀

嫌になったりしたことない?

鎧塚 みぞれ

ない。でも、 希美を好きな自分は嫌いだった。希美は悪くないのに、勝手に苦しくなるから

中川 夏紀

それって、恋とは何が違うん?

鎧塚 みぞれ

そうだったらよかったのに。ただ、一緒にいたかっただけ。でも、それがいちばん難しい。人間は、理由もなく一緒にはいない

武田綾乃. 飛び立つ君の背を見上げる 響け! ユーフォニアム (宝島社文庫) (p.158). 宝島社. Kindle 版.

希美の好きという気持ちは恋愛感情ではなく、ただ友達として一緒にいたいだけだと話す。その想いで同じ高校に進学し、同じ吹奏楽部に入部するも希美は退部してしまう。

大学も希美が行くと言ったから音大を志すも、結局みぞれ一人が入学することになった。これからは学校や部活など、共通する括りが消え、希美と一緒にいる理由がなくなることに寂しさを覚えているみぞれ。

それを聞いた夏紀は大学生になってもまた同じメンバーで遊びに行こうと誘う。その場限りの社交辞令的な返答ではなく、この後、希美とメリーゴーランドに乗ったときに、ちゃんと希美とも約束を取り交わすのが、夏紀の誠実さを表している。

第三話 吉川優子は天邪鬼。

そう言ってくれるなら、部活に入った意味があったわ

卒業式が閉会し、最後のホームルームを終えた後、元吹奏楽部員たちは中庭で1、2年生による見送りをされていた。

久美子は1年生のときのオーディションでの出来事を回想し、ユーフォニアムパートの直属の先輩である夏紀に改めて感謝を伝える。

黄前 久美子

私、あのときに夏紀先輩がシェイクをおごってくれたの、うれしかったんですよ

中川 夏紀

大げさやな。大したことしてへんのに

黄前 久美子

救われたんですよ、私は夏紀先輩に。私、感謝してるんです。本当に、夏紀先輩が先輩でよかった

中川 夏紀

そう言ってくれるなら、部活に入った意味があったわ

武田綾乃. 飛び立つ君の背を見上げる 響け! ユーフォニアム (宝島社文庫) (p.222). 宝島社. Kindle 版.

吹奏楽未経験で入部した夏紀は、技術面では後輩たちに劣っていたが、その人柄の良さや副部長としての働きから皆に慕われる先輩になっていった。

当初、ダラダラできそうという理由で入部するも、希美たちの退部や上級生との衝突、顧問の変更など思い描いていたものとはかけ離れていた部活生活。

苦労も多く、順風満帆とかいかなかった3年間だが、「吹部に入ったの、失敗やったかな」とつぶやいていた過去を思い返すと、久美子に言った最後の台詞は感動的。

いくらでも代わりがいるなかで、うちはアンタを選んでこうやって一緒にいる

卒業記念イベントに向けた準備のため、夏紀の家に泊まりに来た優子。ベットに座る優子とカーペットであぐらをかく夏紀は、高校生活を振り返る。

夏紀は本当はみぞれのように才能溢れる、替えの利かない存在になりたいという想いを胸の内に抱えていた。そのことに気づいていた優子は素直な想いを伝える。

吉川 優子

いくらでも代わりがいるなかで、うちはアンタを選んでこうやって一緒にいるワケ。代わりがないからじゃなくて、代わりがいくらあってもアンタを選ぶ。一緒に音楽やるのも、こうやって過ごすのも、夏紀と一緒がいいよ。

中川 夏紀

そんな恥ずかしいこと、堂々とよく言えるな

吉川 優子

そういう流れだったでしょうが! いま!

中川 夏紀

ま、うちだって選ぶならアンタ以外考えられへんな

吉川 優子

ソッチのほうが千倍恥ずかしい!

武田綾乃. 飛び立つ君の背を見上げる 響け! ユーフォニアム (宝島社文庫) (p.247). 宝島社. Kindle 版.

普段は言い合いばかりしていても、肝心なところではしっかり本音を伝え合える関係は理想的だと思う。

一緒に過ごしてきた仲間が音大へ進み、自分たちとは違う新しい世界に飛び立っていく。それを見送った夏紀と優子は同じ大学でこれからも一緒に歩んでいく。文庫版の表紙に描かれている、背中合わせで天を見上げる二人の姿と重なる。

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