傘木 希美

Nozomi Kasaki

CV . 東山奈央

・楽器:フルート
・南中吹奏楽部の出身で、部長を務めていた。
・北宇治では1年生のときに一度退部したものの、2年生の夏に復帰した。
・高い演奏技術と明るい性格で、後輩からも慕われている。


北宇治高校吹奏楽部のいちばん熱い夏

発売日2015年3月5日
作者武田綾乃
出版社レーベル宝島社・宝島社文庫

収録内容

  • プロローグ
  • 一 フルートの来襲
  • 二 トランペットの本心
  • 三 オーボエの覚醒
  • エピローグ

二 トランペットの本心

辞めたことを後悔するのって、当たり前やと思わへん?

傘木希美

戻りたいって、思わないわけがないと思わん?

傘木希美

去年までわたしらあんなに一生懸命声かけて、それでも誰も聞いてくれへんくて。

傘木希美

真面目に練習してる子らが馬鹿を見てさ、ずっとずっと悔しい思いばっかりしてたのに。

傘木希美

なあ、悔しいって思うのはおかしいことや思う? 辞めたことを後悔するのって、当たり前やと思わへん?

傘木希美

あと一年、アンタみたいに生まれるのが遅かったら、こんな思いせんでよかったのに。

傘木希美が一年後輩の黄前久美子に、去年の部の状況や退部に至った経緯を赤裸々に語るシーン。音楽が好きで練習熱心。リーダーシップもあり、誰もが一目置くフルートの実力者。

にもかかわらず、なかなか報われない。中学最後のコンクールしかり、高校でも努力が実を結ばない。夏紀が抱く「傘木希美はツキがない。」という印象がとても納得できてしまう。

北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 後編

発売日2017年10月5日
作者武田綾乃
出版社レーベル宝島社・宝島社文庫

収録内容

  • プロローグ
  • 一 憧憬にアウフタクト
  • 二 独白とタチェット
  • 三 彼女のソノリテ
  • 四 未来へのフェルマータ
  • エピローグ

三 彼女のソノリテ

でも、違った。青い鳥は、みぞれのほうやった。

傘木希美

自由曲が『リズと青い鳥』に決まったとき、うちらに似てるなって思ってん。

傘木希美

リズはみぞれで、うちは青い鳥。一昨年にこの部活から出ていったうちと、残ったみぞれ。

傘木希美

でも、みぞれはうちをずっと待ってた。だから、似てるなって思った

傘木希美

でも、違った。青い鳥は、みぞれのほうやった

希美は自分が青い鳥だと勘違いしていた。自由に演奏できる環境を求めて、窮屈な部活動から飛び立とうとしたが、羽ばたけずまた戻ってきた。そこで、みぞれこそが青い鳥なのだと気付く。

今思えば、退部することを告げなかったのは、みぞれを閉じ込めておくためだったのかもしれない。いつか鳥籠の外、希美の手の届かないところへ行ってしまうと分かっていたから。

飛び立つ君の背を見上げる

発売日2021年2月27日
作者武田綾乃
出版社レーベル宝島社・宝島社文庫

収録内容

  • プロローグ
  • 第一話 傘木希美はツキがない。
  • 第二話 鎧塚みぞれは視野が狭い。
  • 第三話 吉川優子は天邪鬼。
  • エピローグ
  • 記憶のイルミネーション

第二話 鎧塚みぞれは視野が狭い。

みぞれのこと、ちゃんと好きやのにね。

傘木希美

嫉妬してるんやろうな

傘木希美

夏紀にだけは言うけどさ、うち、みぞれの前やと悪いやつになっちゃう

傘木希美

八つ当たりしたくなっちゃう自分が嫌になるの。

傘木希美

みぞれのこと、ちゃんと好きやのにね。それと同じくらい、多分──

記憶のイルミネーション

そしてほんの少しだけ寂しさを覚えることだった。

傘木希美

四人で遊びに行くのも、旅行に行くのも、いまの自分たちだったらただの友達としてなんだって選択できる。

傘木希美

それは希美にとって間違いなく素晴らしいことで、そしてほんの少しだけ寂しさを覚えることだった。

高校を卒業してみんなと会えなくなるのが寂しい。それなら分かる。でも4人は、また遊ぶ約束を交わしている。大学生になって今よりも自由に、どこへでも行けるはずなのに素直に喜べない。

今までは北宇治高校吹奏楽部という同じ枠組みの中で、一緒にいるのが当たり前だった。その繋がりが失われ、"ただの友達"に変わってしまうことが希美に寂しさを感じさせた。

「ただ、一緒にいたかっただけ。でも、それがいちばん難しい。人間は、理由もなく一緒にはいない」と言っていたみぞれの心情と重なっている。

おわりに

みんなの前では悩みなんて一切なさそうに明るく振る舞っているけど、実はその仮面の下に隠された本心がある。誰よりも複雑に揺れ動く感情を抱えて、葛藤しながらも必死に前へ進もうとする姿に胸が打たれます。