なつのぞ
飛び立つ君の背を見上げる
タイトル | 飛び立つ君の背を見上げる |
巻数 | 13巻目 |
発売日 | 2021年2月27日 |
作者 | 武田綾乃 |
出版社・レーベル | 宝島社・宝島社文庫 |
第一話 傘木希美はツキがない。
そういうところも好きだったり
Q12 あなたが友達に抱いている印象は?
傘木希美はツキがない。(そういうところも好きだったり)
希美のような学園生活に憧れている。
自分の時間を他人に盗られるのは嫌だ。だけど、すべての時間を自分に費やし続けるのはどこか虚しい。
そうなりたいとはちっとも思わないけれど、それでも心のどこかで希美のような学園生活に憧れている。
彼女のような人生を送ってみたい
目を閉じると、瞼の裏に希美の後ろ姿が浮かぶ。揺れるポニーテール。踵を最初につける、快活な歩き方。
彼女のような人生を送ってみたいと少しだけ思う。夏紀だって一度はなってみたい、学校が好きな人間に。
アンタ、ほんまそういうとこ……
吹奏楽部、一緒に入らへん?
なんでうち?
夏紀と一緒だったら楽しいかなって思って
希美さ、誰彼構わず吹部に誘ってんでしょ
あは、バレたか。でも、夏紀が一緒だったら楽しそうってのはほんまやで?
アンタ、ほんまそういうとこ……
相手が、希美だったから。
夏紀は誰かに部活に誘われたからってそう簡単に受け入れるような人間じゃない。
それでも希美だったから、その賭けに乗ることにした。相手が、希美だったから。
希美自身が信じた選択が、多分、いちばん正しい
……希美はどうするん? 軽音部に行くのか、それとも残るのか
どうしたらいいと思う?
また質問を質問で返す
夏紀相手やからさ
中学からの吹部仲間より気を遣わないって?
続ける理由もないでしょ?
まぁ、あの子らにとってうちは部長やったから、ちょっとは気を遣う。大事な友達やし
うちはさ、希美がやりたいようにやればいいと思う
希美自身が信じた選択が、多分、いちばん正しい
......ありがとう
いまこの瞬間に希美が笑ってくれるなら、
いまこの瞬間に希美が笑ってくれるなら、それだけでいいと思った。
そしてそれこそが、夏紀の犯した罪だった。
希美はアンタらの力にもなりたいと思うてたんですよ
ほんま、いなくなってくれてよかったわ!
あ、と思った。脳の回路が焼き切れる。
お前ら性格ブスやなー
中川!アンタ、先輩に向かってなんやその態度
べつに、思ったこと言うただけですけど
先輩らがどう思うてたかは知りませんけどね、希美はアンタらの力にもなりたいと思うてたんですよ。
頭がハッピーやから、話し合えばいつかはわかってもらえるって。アホなんですよ、正しさが誰にでも通じると無邪気に信じてた。
先輩らがアイツらを嫌がる気持ちは理解できます。でも、先輩らを信じてた部分を無視するのはあまりにひどいんとちゃいますか。
希美の誘いがなかったことになるやんか
うちは、夏紀は辞めると予想してた
そりゃ予想が外れて残念でした
希美に誘われて吹部に入ったんちゃうの? じゃあ、希美がいいひんくなったらここに残る理由はないやん
うちが辞めたら、希美の誘いがなかったことになるやんか
なかったことにはならんやろ。ってか、希美は夏紀が部活を辞めても気にしいひんと思うし
そういうんじゃなくて、うちが嫌。希美の影響を受けた自分をなくしたくないというか
ふうん
部活に残れと言えばよかった
だってあのとき、希美の背を押したのは間違いなく夏紀なのだ。
部活に残れと言えばよかった。アンタ以上に吹奏楽が好きなやつなんていないよ、となんでもない顔で言えばよかった。