うまくいかなくて、たくさん傷つけても、うらまないで
安達としまむら
発売日 | 2013年3月10日 |
作者 | 入間人間 |
出版社・レーベル | 電撃文庫 |

収録内容
- 制服ピンポン
- 未来フィッシング
- 安達クエスチョン
- 二等辺トライアングル
- 女子高生ホリディ
未来フィッシング
それはすなわち、なにかを始めているということ

なかなか釣れないもんね

まずそう思うことが大事なのです

はぁ?

なかなか釣れない、うまくいかない。それはすなわち、なにかを始めているということ

あとはただよい未来を願って、釣り糸を垂らすだけです
安達と出会ったことが、よりよい未来そのものであると信じたい。

だから人といることはほんの少し、苦痛を伴う。 理解できないこと、面倒なこと、関係のこじれに伴う修復、解体への労力。

だけどそうした負の面の隙間に、幸せは転がって幸せは転がっている。 子供のときになくした小さなボールを、ふと見つけるように。

安達と出会ったことが、よりよい未来そのものであると信じたい。
安達クエスチョン
し、しまむらのこと、好きみたいな

なに?

え?『好き! っていうか』

えぇ? あら? あらら? 私は、なにを言おうとしたんだ?

いや言った? 言ってない? 言ったら、伝わっていたらどうなる? どうなる?

ん?

『し、しまむらのこと、好きみたいな』

『す、好きなのかな。多分さ、ひょっとしたらのっ話。す、好き? のようなさ』

えぇと、大丈夫? 呼吸してる? 顔、真っ赤だけど
なんだばしゃぁぁぁぁ、

うぅうううう、うううぅうううう
枕に突っ伏したまま唸り声をあげてしまう。

なにしてんの私。ナニシテンノー。

あぅうううあ
あぅうううあと情けない悲鳴のようなものを漏らしながら、制服の上着を脱ぐ。それからまた、うううあああの繰り返し。

うううあああ

なんだばしゃぁぁぁぁ、なんだばしゃーあああああ

感情由来の新しい日本語は、自分でもなにを言っているのかさっぱり分からなかった。
二等辺トライアングル
そうして隠れた先で、わたしは安達と出会った。

人と出会って、話して、自分なりにめいっぱい気を遣って。 こういうのも傷ついたって言っていいのかな?

いやちょっと違うかも、摩耗。わたしが少しだけ削れて消えたって方が正しいかな。

お互いの傷を避けて、無理に触れあわないように変な姿勢で風に吹かれて。

疲れないはずがない。やめようか隠れようか、逃げようかと時々思ってしまう。

でもそうして隠れた先で、わたしは安達と出会った。それはいいことだろうと、肯定できる。
うまくいかなくて、たくさん傷つけても、うらまないで

一人は退屈だ。それは孤独よりずっと辛い、耐えがたい病気だ。

わたしを変成していく悪性の病気に対抗する薬は、人との間に生まれる見えないものしかないんだろう。

だから、わたしはこれからも摩耗していく。 自分を保つために、少しずつ失っていくのだ。

さっきの漫画の台詞を、舌の上で舐めるように呟く。

『うまくいかなくて、たくさん傷つけても、うらまないで』
女子高生ホリディ
ようするに、好きなんだろうなぁと思った。

しまむらと特別でありたい。 変な意味はない、本当にない。

しかし特別であるのなら、変でも構わない。

ようするに、好きなんだろうなぁと思った。