小説『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 前編』から名シーンを3つ紹介します。新シーズン開幕の8作目。
タイトル | 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 前編 |
巻数 | 8巻目 |
発売日 | 2017年8月26日 |
作者 | 武田綾乃 |
出版社・レーベル | 宝島社・宝島社文庫 |
収録内容
- プロローグ
- 一 不穏なダ・カーポ
- 二 孤独にマルカート
- 三 嘘つきアッチェレランド
- エピローグ
三 嘘つきアッチェレランド
自分がいいひんくても構わへんなんて考えは、もってのほかやと緑は思うんなあ
放課後、低音パートの面々はコンクール出場メンバーを決めるオーディションに向け、いつもの教室でパート練習に励んでいた。
教卓横のスペースでコントラバスを弾いていた求は、自分たちの楽器の存在意義について、隣にいる先輩の緑輝に疑問を投げかける。
コントラバスって、なんのために吹奏楽にいるんでしょうか? 本当に必要な存在なんかなって。音なんてほかの楽器の音にかき消されるし、お客さんにだって聞こえないし
求くんは、外から音を聞いたことある? コンバスがいるのといないのとじゃ、響きが全然違うなーって感じると思うよ
コントラバスの大事な役割は、音量じゃなくて、響きを演奏に加えること。演奏全体の雰囲気を変えちゃう、それがコントラバスの持ってるものすごーいパワーやねん
楽器に優劣はないし、音楽を作るのに不必要なパートもないよ。自分がいいひんくても構わへんなんて考えは、もってのほかやと緑は思うんなあ
‥‥‥すみません
武田綾乃. 響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 前編 (宝島社文庫) . 宝島社. Kindle 版.
求は一年生の自分がコンバスとして出場メンバーに選ばれ、限られた枠を埋めてしまうよりもユーフォニアムの副部長でもある三年生の夏紀など他の楽器が出場した方が良いのではと考えていた。
後輩の質問から抱えているネガティブな内心を見透かして、コントラバスの魅力と役割を伝える緑。楽器やパートを卑下するような考えをはっきり否定する。
頑張るってなんですか。
オーディションでわざと下手に演奏した奏を音楽室から引っ張り出した夏紀。
屋上につながる階段で揉めている二人を見つけた久美子は、夏紀の代わりに奏からの問いかけに答える。
努力してた三年生が落ちたのに、どうして何食わぬ顔で一年生なんかがAにいるんだろうって。声に出さなくたって、そう心のどこかで思うに決まってます。
ねえ、先輩。頑張るってなんですか。いくら私が努力したって、みんな中川先輩にAになってほしいと思ってる。私だって頑張ってる。でも、誰も私を望んでくれない。だから、
奏ちゃん、ここは、奏ちゃんがいた中学校じゃないんだよ。いま奏ちゃんがいるのは、北宇治なの
みんなが上を目指してる。そりゃもちろん、夏紀先輩と一緒にコンクールに出たいってみんな思ってるよ。でも、だからといって奏ちゃんが落ちろって思う人間は絶対にいないよ。
毎日顔を合わせて、毎日演奏する音を聞いて。そうやって過ごしてきて、奏ちゃんのことを頑張ってないっていう人なんているわけない。奏ちゃんは、頑張ってるよ
周りから疎まれるくらいなら、自分から譲った方が傷つかなくて済むを考えていた奏。久美子は昨年、1年生ながらコンクールに出場したがそれを否定的に言う人はいなかった。
久美子はその経験から奏の心配していることは北宇治高校では起こらないと断言し、奏の頑張りを認める。奏は夏紀に謝罪し、本来の実力でもう一度オーディションを受けることになった。
エピローグ
みぞれが音楽の道を志した理由は、本当にただそれだけだった。
高校三年生になっても、みぞれは進路についてまだ何も考えられていなかった。GW明けの放課後、新山先生はみぞれの才能を評価し、音大への進学を薦める。
貰ったパンフレットを抱え、進路相談室からパート練習室に向かうみぞれ。希美はその廊下でみぞれの姿を見つけ、駆け寄り声を掛ける。
音大のパンフかあ。みぞれ受けるん?
新山先生がくれた。興味ある? って
‥‥‥ふうん?
希美?
うち、ここの音大受けよっかな。まあ確定とちゃうけど
じゃあ、私も
え?
希美が受けるなら、私も
みぞれが音楽の道を志した理由は、本当にただそれだけだった。
この希美の何気ない発言が、今後の二人の関係に大きな影響を与える。「波乱の第二楽章 後編」に繋がり、映画「リズと青い鳥」でも描かれる重要な場面。