成績優秀で聖歌隊の部長を務めていた3年生の作永きみ。周囲から見ても順風満帆な高校生活を送っていたきみが突然、高校を辞めた理由。
作品情報
作品 | 映画「きみの色」 |
監督 | 山田尚子 |
脚本 | 吉田玲子 |
公開日 | 2024年8月30日 |
主題歌 | Mr.Children「in the pocket」 |
制作会社 | サイエンスSARU |
プロフィール
作永 きみ
Kimi Sakunaga
・15歳、高校3年
・虹光女子高校(中途退学)
・聖歌隊 元部長
・バント「しろねこ堂」
・ボーカル、ギター担当
・祖母と二人暮らし
スケジュール担当の苦労
推薦されたのか自ら立候補したのかは語られていないが、きみは2年生のとき聖歌隊内でスケジュール担当を任されていた。
聖歌隊で一番苦労するのが、練習スケジュールのやり繰りだった。あるプランを出すとあちこちから異論が噴出して、事態収拾に時間と労力がかかる。
聖歌隊は人数も多く、全員の都合を考慮した練習スケジュールを作るのは難しい。
主に二年生の仕事だったが、きみはその時スケジュール担当となり苦労させられた。
平日の放課後だけでは練習時間が限られているし、かといってせっかくの休日まで練習に費やすほど活動に積極的な生徒ばかりではない。
スケジュール調整の大変さ
物語の冒頭、スケジュール担当の聖歌隊の後輩たちと廊下で会話するシーン。
きみ先輩、聖歌隊の練習日程のことで相談があるんですけど……
...なので、きみ先輩の都合の良いときにお時間いただけますか?
うん、わかった
きみ先輩、ありがとうございました!
ありがとうございました!
2年生だけでは手に負えず、部長のきみに相談を持ちかけている。スケジュールの調整がいかに大変であるかがわかる。
2年連続で・・・・・・
きみは苦労しながらもスケジュール担当としての1年をなんとか乗り越えた。
三年生になって解放された、と思っていたが、推挙されて部長になってしまい、よりいっそう大変な思いをしていた。
肩の荷を下ろせるかと思いきやまさかの部長に推薦され、2年連続で責任ある役目を担うことになってしまった。
部長推薦
聖バレンタイン祭の体育館コンサートが終わった直後の出来事。きみが次期部長に指名される
〝コンサート成功の一番の功労者〟として、当時の部長に称賛されたあとに「次の部長に作永さんを強く推挙します」と宣言されてしまった。
優れた歌い手として、また、スケジュール担当として、見事な手腕を発揮したきみはこれからの聖歌隊を率いることを任された。
周囲からの圧力
きみがその場で辞退することなど決してできない〝圧〟があった。 この瞬間からきみはさらなる〝重荷〟を背負ってしまったのだ。
聖歌隊の生徒だけではなく、先生や校長もいる場での推薦であったため、断るに断れない空気で、受け入れてしまう。
立場の変化
嫌いだったわけではない。厭わしいと思ったことはない。だがどれもこれもが少しずつきみの気持ちを圧迫していた。
聖歌隊は歌が大好きなきみにとって居心地の良い場所だった。ただ、何でも卒なくこなせるきみの優秀さが故、学年が上がるたびに役目を押し付けられた。
きみはコンサートが近づく中で、聖歌隊を辞めたいと考えたことが何度かあった。
そして、1年生のときのように歌に夢中になれる場所ではなくなっていく。
漠然とした憂鬱
きみ自身もそのはっきりした原因はわからない。原因がわかっていればそれを取り除くことができたかもしれない。
例えば、聖歌隊メンバーの誰かとの仲が険悪であるとか、活動方針で揉めて喧嘩したとかそういった明確な原因があったわけではない。
しかし、きみは聖歌隊のことを考えるだけで気がふさぐのだった。
人間関係のトラブルもなく、尊敬される部長としての地位を築いていた。歌が大好きだったはずなのに一年以上も歌うことを純粋に楽しめない状況が続いたことで、憂鬱な気分になってしまう。
もし辞めたら・・・・・・
聖歌隊を辞めたら、と考えると部員たちの顔が一つ一つ頭の中に浮かび上がってくる。
きみは仮に聖歌隊を辞めた場合の未来を想像してみた。
その顔には落胆や怒りや嫌悪が浮かんでいるように思えた。学校でそんな顔や視線にさらされるのは耐えがたい。
部長という責任から逃れることはできるけれど、聖歌隊のメンバーとはこれからも同じ高校という空間で暮らしていかなければいけない。
いっそのこと
聖歌隊だけを辞めれば、卒業までの残りの時間をある意味、裏切り者のような扱いで過ごさなければいけなくなるだろう。
するとまったく考えもしなかった大それた言葉が頭の中に浮かんだ。
「学校を辞めたい」
それはすべてを解決する魔法のように思えた。
きみはそんな葛藤の中で、ならいっそ高校からも離れればいいという飛躍した結論にたどり着いた。
トツ子から見たきみの性格
トツ子がきみと関係を深めて、親しくなってから知ったきみの本当の性格。
きみが目立つことが苦手なのをトツ子はこの数カ月で知った。そんな彼女が学校の中では〝リーダー〟のように扱われた。
遠くから見ていた頃の印象では、人前に立ち、みんなを導くことに長けていると思っていた。
しかも、白か黒かの判断をゆだねられて、ときに反対意見を切り捨てて決断しなくてはならなかったはずだ。
実際は控えめな性格で聖歌隊の部長に向いているとはトツ子には思えなかった。
苦痛だったろうし、居心地が悪かったのだろう
限界
学校を辞めることが、これから先の人生で、大きな損失になることは容易に想像できた。だが、冷静に損得をはかれるような状態ではなかった。
聡明なきみは高校を辞めるリスクは理解できていたが、すぐにでも逃げ出さなければいけないほどきみの精神は限界に達していた。
解放
嫌なことから逃げると同時に好きだったものも手放さなければならない。結局、きみは退学届を提出する。
解き放たれたい、ときみは心底望んだ。そしてすべてを投げだした。好きな物理も数学も、歌うことも、仲間や教師たちの信頼も・・・・・・。
学校では聖歌隊の部長、そして成績優秀な模範生。家では期待してくれる祖母との2人で暮らし。そんな環境に置かれ、誰にも弱音を吐くことは許されなかった作永きみ。
心に迷いや悩みを抱えながらも、どこにも発散できず、誰にも打ち明けられまま、無理して、強がって、そしてついには限界が近いと気づいて、その場から離れるしか自分を助ける方法がなかった。
その後、高校を辞めたきみはトツ子とルイと共に3人でバンド「しろねこ堂」を結成する。自由に歌うことの求めて。
<引用> 著:佐野晶、原作「きみの色」製作委員会『小説 きみの色』宝島社