小説『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』から名シーンを3つ紹介します。物語の原点となるシリーズ1作目。
タイトル | 北宇治高校吹奏楽部へようこそ |
巻数 | 1巻目 |
発売日 | 2013年12月5日 |
作者 | 武田綾乃 |
出版社・レーベル | 宝島社・宝島社文庫 |

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収録内容
- プロローグ
- 一 よろしくユーフォニアム
- 二 ただいたフェスティバル
- 三 おかえりオーディション
- 四 さよならコンクール
- エピローグ
三 おかえりオーディション
アタシはさ、特別になりたい
あがた祭りの日、久美子と麗奈は宇治神社前で待ち合わせをしていた。屋台に行くと思っていた久美子だが、麗奈に連れられ大吉山に登ることになる。
山の中腹に休憩所として設置された展望台に着くと、麗奈は自身がトランペットを吹く動機を口にする。

久美子なら、わかってくれると思って。こういう、意味不明な気持ち

わかるよ、麗奈の気持ち

アタシはさ、特別になりたい。他人から称賛されたい。ほかのやつらと同じって、思われたくない

トランペットを吹いてたら、特別になれるの?

なれる。だからアタシは、吹奏楽をやってんねん。特別でありたいから
武田綾乃. 響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ (宝島社文庫) (p.170). 宝島社. Kindle 版.
祭りの日に山登りをするように普通の人とは違う “特別” でありたいと語る麗奈の気持ちに共感する久美子。吹奏楽をする上で明確な理由のある麗奈に対して、姉の影響で始め惰性で続けている久美子は、自身がユーフォニアムを吹く想いを見つめなおす。
同じ北中学校吹奏楽部出身だが、遊びに行くような関係ではなかった二人の距離が縮まるきっかけのシーン。
部活辞めたの、後悔してない?
一学期、期末試験の一週間前。久美子は立ち寄った本屋で偶然、部活を辞めた葵と出会う。気まずい空気の中、別れ際に久美子は葵の本心を確かめようとする。

私もあすかみたい に賢かったら、部活 続けられたのに

葵ちゃん、

何?

部活辞めたの、後悔してない?

してないよ。まったくしてない

そっか
久美子は笑って、だまされたふりをした。
武田綾乃. 響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ (宝島社文庫) (p.189). 宝島社. Kindle 版.
言葉の裏に隠された本当は続けたいという葵の気持ちに気づくが、呼び戻す言葉は投げかけられない久美子。
先輩・後輩でありながら、幼馴染でもある二人の微妙な関係性や距離感が垣間見える。久美子は続けたくても続けられない人がいるという現実に向き合う。
四 さよならコンクール
‥‥‥先輩は、いい人ですね
コンクール編成メンバーが発表された放課後、A編成に選ばれなかった夏紀は後輩の久美子をマクドに誘い、シェイクを奢る。
久美子は中学の頃も自分が選ばれたことで先輩が出場できなくなり、そのせいで先輩に無視されるようになったというトラウマがある。

あーあ、 選考 落ちてしもうた

ぐほっ

何? 気ぃ遣ってくれてんの?

い、いやあ、その……

気にせんでええって。だってさ、考えたら当たり前のことやろ? うちは高校入って 吹奏楽を始めたから、まだ 一年しかユーフォを吹いてへん。アンタのほうが受かるのは当然や

それにさ、べつにコンクールは今年で終わりってわけちゃうねんから、来年 頑張っ てAで出ればええやんか

‥‥‥先輩は、いい人ですね
武田綾乃. 響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ (宝島社文庫) (p.201). 宝島社. Kindle 版.
夏紀は気に病んでいる様子の久美子に、今回の選考結果に不満や妬みはないと素直な気持ちを伝える。
夏紀の優しさや気遣いを受けて、久美子は前向きな気持ちでコンクールに望めるようになる。久美子はこの日のことを夏紀の卒業式の日に改めて感謝を伝える。
中世古さん、あなたがソロを吹きますか?
京都府大会の前日。香織の希望により、コンクールにおけるトランペット ソロ奏者の再オーディションが行われることになった。香織と麗奈、両者の演奏後、滝先生は香織自身にどちらが演奏するか訊ねる。

中世古さん、あなたがソロを吹きますか?

吹かないです

…… 吹けないです

ソロは、あなたが吹くべきやと思う

…… あのときは、生意気言ってすみませんでした
武田綾乃. 響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ (宝島社文庫) (p.246). 宝島社. Kindle 版.
顧問の決定で一度、麗奈に決まった後も、納得できず練習を続けていた香織。麗奈の秀でた演奏を聴き、諦める決心がついた香織は自分の意志で身を引くことを決める。
技術の優れた1年生か最後の大会となる3年生か。どちらがソロを吹くべきなのか、部全体にまで広がっていた揉め事に終止符が打たれた。