南中学校出身の同級生、みぞれ・希美・優子・夏紀の4人がそれぞれの理由で涙を流したシーンをまとめました。
鎧塚みぞれの涙
タイトル | 北宇治高校吹奏楽部のいちばん熱い夏 |
巻数 | 2巻目 |
発売日 | 2015年3月5日 |
作者 | 武田綾乃 |
出版社・レーベル | 宝島社・宝島社文庫 |
収録内容
- プロローグ
- 一 フルートの来襲
- 二 トランペットの本心
- 三 オーボエの覚醒
- エピローグ
久美子は希美から逃げるように走っていったみぞれを探し、南校舎の二階の廃部になった映画部の部室に入る。その埃っぽい教室の隅でうずくまっているみぞれを見つけ、みぞれが抱えている想いを聞く。
コンクールなんて、なくなってしまえばいい。そしたら、希美がいなくなることもなかった。評価に納得いかなくて、泣くこともなかった。
馬鹿みたい。こんなものにみんな夢中になるなんて。いくらやったって、楽しいことなんてひとつもないのに。何も残らないのに。苦しい気持ち、ばっかりなのに
他の階を捜索していた優子は、久美子とみぞれが話している教室に遅れて入る。
同じ南中学校吹奏楽部出身で中学最後の大会での苦い思い出を共有している優子は、みぞれの正面に対峙し、みぞれの本心を問いつめる言葉を投げかける。
ほんまに希美のためだけに、アンタは吹奏楽を続けてきたんかいな。楽しいこと、うれしいこと、ほんまにひとつもなかった?この前の京都大会は?関西大会行きが決まったとき、ほんまにうれしくなかったん?
うちはうれしかった。頑張ったら報われるんやって。やっと、そう思えたんや。中学の記憶から、やっと解放されたような気がした。みぞれは違った?アンタはあんとき、なんも思わへんかったか?
‥‥‥うれしかった、本当は。でも、それと同じくらい、辞めていった子たちに申し訳なかった。喜んでいいのかなって
いいに決まってる。そんなん、喜んでええに決まってるやんか。少なくとも、うちは悲しんでほしくない。だから、笑って。
みぞれの目が大きく揺らぎ、大粒の涙がそこからぼろぼろとこぼれ落ちた。みぞれは優子の肩にその顔を埋めると、わんわんと声を上げて泣き始めた。ため込んでいたものが、一気に爆発したみたいだった。
オーボエ奏者は一人しかいなかったため、みぞれは1年生のときからコンクールにもA編成で出場していた。自分だけが恵まれた環境にいることに後ろめたさを感じ、コンクールに対してネガティブな感情に囚われていた。
優子に笑ってと言われるも、みぞれは大粒の涙を流す。アニメ版では「響け!ユーフォニアム2 第四回 めざめるオーボエ」で映像化されている名シーン。
傘木希美の涙
タイトル | 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 後編 |
巻数 | 9巻目 |
発売日 | 2017年10月5日 |
作者 | 武田綾乃 |
出版社・レーベル | 宝島社・宝島社文庫 |
収録内容
- プロローグ
- 一 憧憬にアウフタクト
- 二 独白とタチェット
- 三 彼女のソノリテ
- 四 未来へのフェルマータ
- エピローグ
コンクールに向けた夏合宿で合奏練習中のA編成メンバーたち。小休憩の後、みぞれは自由曲「リズと青い鳥」を最初から通しでやりたいと滝に希望した。
いままで無意識に実力を抑えて吹いていたみぞれだったが、新山先生のアドバイスにより本来の実力を発揮する。その見違えるほどの演奏を聞いた希美は掛け合い部分のフルートを吹くことができなかった。
圧倒的な実力差を見せつけられた希美はホールを後にしてしまう。外の階段でうずくまって泣いている希美と追いかけてきた久美子の会話。
みぞれのソロ、どう思った?
す、すごかったです。正直、びっくりしました。胸がぎゅっと締めつけられる感じで。うるっとしました
うちもさ、こんなふうに演奏中に泣いて吹けんくなったのは初めてやった
ほかにも泣いてる子いました。なんというか、感動的できたもんね
うちはさ、そういう理由で泣いたんちゃうねん。 ショックやった。こんなに差があったんかーって、まざまざと見せつけられた感じ。ずるいよね、みぞれは。ほんとずるい
平静を装う声が、ところどころかすれている。
みぞれの演奏に感動して泣いた訳ではないという希美。同じ中学出身の同級生のはずなのに、その間にある埋まらない才能の差を痛感して希美は泣いてしまう。
後輩の久美子の前だからと笑顔を見せようとするも言葉を続けるうちにだんだんと感情を抑えられなくなっていく。
ほんまは、最初から知っててん。みぞれに才能があるって。でも、それを認めたくなかってん。うちは・・・・・・うちは、心のどこかで、みぞれより自分のほうが上手いって、思ってたかった。
こらえきれなかった嗚咽が、希美の口から漏れた。
みぞれは練習を苦にせず、めきめきと上達し、いつしか実力面では立場が逆転してしまう。それでも、みぞれはそんなことはつゆ知らずとばかりに、以前と同じように希美の背中を追いかけ続ける。二人のアンバランスな関係が希美の感情を狂わせていた。
高校ではみぞれだけが、先輩とのいざこざに巻き込まれることなく、1年生ながらコンクールにも出場できることになった。
だって、みぞれよりうちのほうが絶対に音楽好きやんか。苦労してるつらい思いもしてる。それやのに、みぞれのほうが上なんて
汗を吸った希美のTシャツからは、うっすらと下着の色が透けている。いまだ涙に濡れるその瞳を、久美子は正面からのぞき込んだ。
中学1年の頃、同じクラスだったみぞれを吹奏楽部に誘った。3年のときは部長を務め、希美は常にみぞれを引っ張っていく存在だった
対して希美はやむを得ず退部の道を選ぶことになる。一緒にやめた同級生に軽音部に誘われるも、大好きなフルートを続けたいからとそれを断り、社会人楽団に所属して練習を続けた。
自分が理想としていた音楽に没頭できる環境に居続けられるみぞれを羨ましく思い、次第に希美がみぞれに向ける感情は嫉妬へと変わっていった。
みぞれのことを素直に認められず、醜い感情を抱いてしまっている自分の惨めさに希美は涙した。
吉川優子の涙
タイトル | 北宇治高校吹奏楽部のホントの話 |
巻数 | 10巻目 |
発売日 | 2018年4月5日 |
作者 | 武田綾乃 |
出版社・レーベル | 宝島社・宝島社文庫 |
収録内容
- 一 飛び立つ君の背を見上げる(Fine)
- 二 勉学は学生の義務ですから
- 三 だけど、あのとき
- 四 そして、そのとき
- 五 上質な休日の過ごし方
- 六 友達の友達は他人
- 七 未来を見つめて
- 八 郷愁の夢
- 九 ツインテール推進計画
- 十 真昼のイルミネーション
- 十一 木綿のハンカチ
- 十二 アンサンブルコンテスト
- 十三 飛び立つ君の背を見上げる(D.C.)
卒業式の朝、学校へ向かう優子は肩を叩かれて振り向くと、顔を赤くしたみぞれが息を切らしていた。みぞれはいままでの感謝を優子に伝えようと、優子の背中を見つけ、駆け寄っていた。
だって、助けてくれてた。ずっと
自分勝手に動いてただけやって
そんなことない。私、ちゃんとお礼を言おうって思ってた。だから、走った
あぁ、それで
言葉が詰まる。胸がいっぱいになり、優子はとっさにうつむいた。両目が熱い。
優子、どうしたの? 私、ダメなこと言った?
ちがう、全然。ダメじゃない。ただ、みぞれがそんなこと言ってくれるんがうれしくて
ほんと?
うん、ほんと。こっちこそ、こっちこそ、いままでありがとう。みんなが辞めたときに、吹部に残ってくれてありがとう。オーボエを続けてくれてありがとう。一緒に頑張ってくれて、ほんまありがとう
‥‥‥優子のほうが、ありがとうが上手
何それ
みぞれの口からそんな言葉を聞くとは思っていなかった優子の涙腺は崩壊してしまう。一緒に学校に向かっていた希美と夏紀は、みぞれと泣いている優子の姿を見つけ二人に合流する。優子はフライング泣きだと夏紀に笑われてしまう。南中カルテットでの最後の登校となった。
中川夏紀の涙
タイトル | 飛び立つ君の背を見上げる |
巻数 | 13巻目 |
発売日 | 2021年2月27日 |
作者 | 武田綾乃 |
出版社・レーベル | 宝島社・宝島社文庫 |
収録内容
- プロローグ
- 第一話 傘木希美はツキがない。
- 第二話 鎧塚みぞれは視野が狭い。
- 第三話 吉川優子は天邪鬼。
- エピローグ
- 記憶のイルミネーション
卒業式の日。久美子をはじめとする後輩たちに見送られたときには涙する気配はまったく見せなかった夏紀。
その翌日。朝ご飯を食べ、珍しく化粧をしてみたりと、午後の優子と約束の時間までひとり家で過ごしていた。
ソファーへ寝転がった夏紀は、卒業を実感し、だんだんと感情が込み上げてくる。
べつに、寂しいわけじゃない。悲しいわけでもない。ただ、虚しい。あれだけ濃密な時間をともにしたというのに、いったい自分に何が残ったというのだろう。
音楽室に集まって同じメンバーで合奏することは、これから先、二度とない。
熱い何かが頬を伝う。いまさらかよ、そうつぶやこうとして唇が震えた。呼吸のリズムが崩れ、夏紀はソファーの上にあったクッションを抱き締める。涙腺の蛇口が壊れてしまったのか、涙があふれて止まらない。
ひどくなる嗚咽をこらえようともせず、夏紀はただ泣き続けた。涙の条件は一人になることだったのかと、夏紀はようやく思い知った。
おわりに
夏紀は後輩に涙を見せない。希美はみぞれには見せたくない。優子は周りなんて気にしない。アニメ第一期「第十一回 おかえりオーディション」で香織先輩がソロを麗奈が吹くべきと言い、優子が号泣するシーンは原作には書かれていないんですね。